2015年1月20日火曜日

西洋的価値観と移民 –パリのシャルリ・エブドーについて-

1月7日にパリにある週刊誌「シャルリ・エブド」でテロ襲撃が起こって以来、関連するニュースを追いかけていました。この論点について簡潔にまとめたいと思います。

「表現の自由」はどこまで許容されるのか
 西洋社会においては中世から絶対的権威を持っていた宗教から脱却するために、表現の自由が大きな役割を果たしました。その歴史ゆえ、表現の自由が西洋の基本的価値観であり、今後も宗教・国家権力・暴力から守られるべきという点には賛同します。また風刺画は本来権威に対して挑戦するものであり、人を不快にさせうるものということも同意します。
 ただ、私自身はシャルリ・エブドーの表現にはいささか配慮に欠ける部分があったと思います。なぜならば、フランス社会においてイスラム教の人々は、1) その大多数が普通の市民生活を送っている、2)マイノリティであり、3)経済的社会的に中流もしくは下流の生活を送っています。そうした人々も含めて信仰しているムハンマドを風刺するのは、ペンを向けるべき矛先が違うのではないかと感じます。なぜならジャーナリストを含む知識人とは、サイードが言ったように「城壁の中にいる王のためではなく、外を歩く旅人の側に立ち」、マイノリティを代弁するものだと考えるからです。

移民はアイデンティティをどこにもつのか
 9.11と違い、今回テロを起こしたメンバーの中にはフランスで育った移民2世がいます。彼らは生まれ育ったフランスではなく、イスラムの価値観に自分のアイデンティティを求めました。もともとフランスで育った人がなぜテロを起こしたのか、その理由こそを考察する必要があります。それは上記で述べたような社会的背景が大きな一因を占めているでしょう。

日本は移民を包摂できるのか
 フランスやイギリスにおいて、移民は人口の約10%を占めます。それに対して日本は2%弱にとどまっています。しかし今後20~30年のスパンでは少子高齢社会による労働力不足のため、受け入れ拡大を検討する必要があります。今後日本も現状の移民政策を見直し、各国の現状に学びながら移民政策を変化させていく必要があります。

イスラムブックガイド
私が「イスラム」を理解する際に参考になった本を紹介します。
・『池上彰が読む「イスラム」世界』池上彰 
池上さんによる非常に要を得てわかりやすいイスラム入門書です。

・『ヨーロッパとイスラム 共生は可能か』内藤正典 
ドイツ、オランダ、フランスにおけるイスラム移民の生活の実態が紹介されています。

・『<中東>の考え方』酒井啓子 
中東全体の見取り図を持つために歴史を含めて中東とはなにかが整理されています。

・『イスラーム文化』井筒俊彦 
腰を据えてイスラム文化を学びたい人に。日本のイスラム研究者の第一人者です。

・『批判的想像力のために 現代日本における移民と市民権』テッサ・モーリス・スズキ
短い論考ですが、日本の移民政策の背景と、今後への示唆に富む文章です。

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